あなたは「結核」という病気を聞いたことがありますか?
なんとなく「怖い病気」ということは知っているかもしれませんね。
ここでは、
という人のために、簡単に説明していきます。
結核は、「結核菌」という細菌が肺の中に入り、増えていくことによって発症します。
初期は風邪の症状(せき・痰・発熱)に似ていますが、進行すると肺が破壊され呼吸困難になってしまうこともあります。
結核というと、昔の病気のイメージがあるかもしれませんが、現在でも多くの人が罹患しています。
結核で亡くなる人は、年間約2000人。
日本では最大級の感染症と言われています。
ここでは「結核」の原因菌である「結核菌」について、まとめています。
- 結核菌を含む抗酸菌の種類
- 結核菌を検出する検査
- 国家試験の過去問に出題された結核菌の問題
院内で検査するかどうかは別として、多くの病院で「結核」を診断するための検査を出しています。
「結核菌」の知識を持っておくことは大事なことです。
また、国家試験にもよく問われている分野でもあり、毎年1~2問は確実に出題されています。
【結核菌】と抗酸菌との違いって何?
結核の原因菌である結核菌は、「抗酸菌(Mycobacterium:マイコバクテリウム)」の仲間です。
という疑問を持っている人もいるかもしれません。ちょっとややこしいですよね。
簡単な図にしてみると、こんな感じです。
抗酸菌という大きなくくりの中に、結核菌や他の菌が入っているというイメージです。
抗酸菌から結核菌とライ菌(ハンセン病の原因菌)を引いたものを、「非定型抗酸菌」と呼びます。
「非定型抗酸菌」は、「非結核性抗酸菌」とも呼びます。
文字のとおり、「結核菌ではない抗酸菌」という意味です。
「非定型抗酸菌」の7~8割が、Mycobacterium avium:マイコバクテリウム アビウムという菌です。
略してMAC(Mycobacterium avium complex)と呼ばれることが多いです。
MACによって発症する病気を、「肺MAC症」と言います。
肺MAC症は結核とは違って、症状が緩やかで周りの人に感染することはありません。
結核菌とMAC、どちらも抗酸菌の仲間なのに、こんなにも性質が違うのは不思議ですね。
【国家試験で頻出!】抗酸菌の種類を覚えよう
抗酸菌の種類は以下のように分類されます。
抗酸菌の分類は、国家試験でよく問われている内容なので、必ずチェックしておいてくださいね!
抗酸菌には多くの種類がありますが、特に覚えておきたいのが表で赤文字になっている以下の4つです。
- M.tuberculosis
- M.kansasii
- M.marinum
- M.avium
【結核菌】を検出するためにおこなわれる検査
患者さんの体内に「結核菌」があるということを知るためには、どのような検査をする必要があるのでしょうか。
結核を診断するために行われる検査は、大きく2つに分かれます。
この2つの検査によって、総合的に診断しています。
- 肺のレントゲン・CT
- 喀痰・胸水からの結核菌の検出
1の「肺のレントゲン・CT」は、放射線技師の領域です。
2の「喀痰や胸水からの結核菌の検出」が臨床検査技師がおこなう検査ですね。
さらに、この「喀痰や胸水からの結核菌の検出」をする検査は、以下の3つに分かれます。
- 塗抹検査
- 培養検査
- 遺伝子検査
それでは、「塗抹検査」「培養検査」「遺伝子検査」の3つの検査を順番に見ていきましょう。
1.結核菌の「塗抹検査」について
「塗抹検査」は、喀痰などの材料をスライドガラスに直接塗抹し、乾燥、熱で固定、さらに菌を見やすくするために染色をします。
抗酸菌の検出に有力な染色を、「チールネルゼン染色」と言います。
チールネルゼン染色で菌を染めた後、顕微鏡を使って抗酸菌を探します。
塗抹検査は、簡単に抗酸菌があるかどうか簡単に調べることができます。
しかし、デメリットもあります。
菌が少ない場合に陽性にならないこと、また、細菌が生きているのか死んでいるのか、種類の判別ができません。
そのため、菌を増やして検査をする必要があるのです。
それが、次に紹介する「培養検査」です。
2.結核菌の「培養検査」について
「培養検査」は、培地を使うことで菌を増やしていきます。
菌を増やすことで、検出率が高くなること、また生きている菌を得ることによって同定検査や薬剤感受性検査ができることがメリットです。
培養検査では、古くから「小川培地」という培地が用いられてきました。
しかし、結果が出るのに4~8週間もかかるのです。
「できるだけ早く結核菌があるかどうか知りたいのに…」小川培地を用いる培養検査は迅速検査という意味では、あまり使えません。
また、少量の菌では増殖しないことがあります。
培養検査では抗酸菌以外の菌が発育しないように、3%のNaOH(水酸化ナトリウム)で前処理をします。
抗酸菌は、アルカリ抵抗性(アルカリに強い)という特性を持っています。
(抗酸菌という字で、酸に強いことはわかると思いますが、アルカリにも強いってことも覚えておいてくださいね)
特に、この前処理をすることによって、抗酸菌の増殖が抑えられてしまうことがあるそうです。
そこで、最近は別の培養検査が用いられていることが多いです。
代表的な培養試験に、「MGIT(Mycobacterium Growth Indicator Tube)法(ミジット法)」があります。
MGIT法は、抗酸菌の検出感度が高く、また迅速に検出できます。
3.抗酸菌の「遺伝子検査」について
2の培養検査で菌が検出された(陽性だった)場合、「遺伝子検査」に進みます。
遺伝子検査は、主にPCR検査(核酸増幅検査)がよく用いられます。
菌のDNAを増幅することによって、菌の種類を特定することができるのです。
(菌の種類を特定することを「菌を同定する」と言います)。
なぜ、菌を同定する必要があるのでしょうか。
先ほどお話ししたとおり、抗酸菌には様々な種類があります。
実は、菌によって効果がある薬剤が違うのです。
治療に用いる薬剤を決定するために、菌を特定する必要があるということです。
また、「抗酸菌の種類」のところでもお話ししたように、「結核菌」と「非定型抗酸菌(非結核性抗酸菌)」の区別も、遺伝子検査によっておこなわれます。
この「結核菌」と「非定型抗酸菌(非結核性抗酸菌)」を区別することが、臨床において重要なことなのです。
というのも、「非定型抗酸菌」は、他人に感染することはないため外来で治療することができるんですね。
遺伝子検査は、菌を同定することによって医師が治療方針、薬剤を決める重要な検査なのです。
国家試験に出題された「結核菌」の問題
最後に、臨床検査技師の国家試験で実際に出題された「結核菌(抗酸菌)」に関する問題を見ていきましょう。
【第66回 午前】
Mycobacterium 属で低温(30 ℃)での培養が必要なのはどれか。
1.M. avium
2.M. intracellulare
3.M. kansasii
4.M. marinum
5.M. tuberculosis complex
解説
抗酸菌の中で「30℃で発育」するものは、M.kansasii。
これは国家試験でもよく問われているので、絶対に覚えておきましょう!
【第66回 午後】
加温染色を行うのはどれか。
1.Gram 染色
2.Neisser 染色
3.Giménez 染色
4.オーラミン O 染色
5.Ziehl-Neelsen 染色
解説
抗酸菌群は厚い細胞壁を持っているため、普通染色では染まりにくいという性質があります。
そのため、媒染剤を加える、加温するといった強力な方法で染色をするのです(チールネルゼン染色)。
染色手順まで詳しく覚える必要はありませんが、「抗酸菌は強力な染色をしないと染まらない」ことは覚えておきましょう。
【第65回 午後】
Mycobacterium 属でⅠ群(光発色菌群)はどれか。
1.M. abscessus
2.M. avium
3.M. fortuitum
4.M. kansasii
5.M. tuberculosis
解説
抗酸菌の種類をまとめた表を覚えていれば解けるサービス問題!
Ⅰ群(光発色菌群)の、M.kansasii・M.marinum は絶対に覚えておきましょうね。
一発で覚える!ゴロ合わせ